懐かしいもの

満員電車に揉まれていたら、

懐かしいものを見かけた。

 

男の人が肩をすぼめながら読んでいたハードカバーの本。

その本にかけられた紙のブックカバーが、

地元にある本屋さんの初期に出されたデザインのものだった。

 

懐かしい!

カバーは確か、15年、20年前くらい前のものだと思う。

真っ白なカバーに、小さく店のモチーフが描かれている。

今は色もデザインも変わってしまって、

当時のおもかげはない。

 

ブックカバーは色あせてなくて、

真っ白いままだった。

ブックカバーには何筋も折り目がついていて、

本のサイズに合わせて使い分けているみたいだった。

なんて物持ちの良い人なんだ…!

 

懐かしいものを見ると、

体温がぶわっと一気に上がる。

その時の季節やにおいも、一緒になって蘇ってくる。

普段は思い出しもしないことが、

満員電車のこんな小さなきっかけで

急に"今"のものになるのがすごく不思議。

 

思い出も、記憶も。

自分では気づいていないけど、

いつかどこかで思い出されるのを、

頭のどこかでじっと待ってるのかもしれない。